こんにちは。カナエです。
今回はヨーロッパでの羊と人間のつながりの深さが感じられる映画「LAMB 」について書きたいと思います。
羊飼いの夫婦のもとに誕生した”奇妙な羊”は何をもたらすのか?
🐑映画データ
製作年 2021年 アイスランド・スウェーデン・ポーランド合作
原題 Lamb
監督 バルディミール・ヨハンソン
脚本 ショーン、バルディミール・ヨハンソン
キャスト ノオミ・ラパス、ヒナミル・スナイル・グブズナソン、 ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン
🐑映画のあらすじ(ネタバレ)
アイスランドの山奥で羊飼いの仕事をするイングヴァル(ヒナミル・スナイル・グブズナソン)とマリア(ノオミ・ラパス)の夫婦。ある日羊の出産に立ち会った二人は産まれたのが❝羊ではない奇妙なもの❞だったのに驚きます。初めは戸惑う二人でしたが、羊たちから離して自分たちの家で人間の赤ん坊のように育て始めるのでした。

イングヴァルは妻のマリアが自分の子のように可愛がるのに疑いの目を向けていましたが、次第に自分も愛情を覚えてきて❝アダ❞という名前も付けました。それは昔死んでしまった自分たちの娘の名前で、娘の死以来夫婦の間には溝が出来ていましたが、アダのおかげでイングヴァルたちは以前のような夫婦の関係に戻ることが出来ました。ふたりは再び笑いあうようになり、幼いアダを囲んで穏やかな家庭が出来あがりました。
アダは頭部は羊でしたが体は何故か人間の形態でした。アダを生んだ母親の羊はアダを恋しがってアダのいる部屋の外でメエメエと呼びかけましたが、アリアはそれをうっとおしく思い、ある日母親の羊を殺してしまいます。そしてアダの母親が自分一人になったことにホッとするのでした。
そんな時イングヴァルの弟でバンドマンのペートゥル(ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン)が実家に戻ってきます。アダを見て驚くペートゥルにイングヴァルは俺たちの生活に口を出すな、と言うのでした。

だけどあれは羊じゃないか・・
納得のいかないペートゥルはアダを連れだして銃で殺そうとします。けれどアダの黒い綺麗な瞳を見て思いとどまりました。それからはアダをトラクターに乗せたり一緒に釣りに行ったりして仲良くなります。
しかしアダも大きくなるにつれて川の水に映る自分の顔を見てマリアたちと違う事に気づいてきます。それに家の番犬がアダに敵意を持って脅かすのでした。しかし番犬はある日アダと同じ頭部が羊の半人半獣の男に殺されてしまいます。その現場を目撃したアダは家に逃げ帰り鏡で自分の姿を見つめるのでした。
ペートゥルとアダがトラクターで遊びに行った間に久しぶりにベッドで愛情をかわしたイングヴァルとマリア。そしてお酒を飲んだ二人は帰ってきたペートゥルと三人でテレビでスポーツ観戦をして楽しみます。しかし深酒をしたイングヴァルがアダと寝てしまうとペートゥルと二人きりになったマリアは関係を迫られてしまいました。

なんとかペートゥルを部屋に閉じ込めて翌朝ペートゥルをバス停まで送るマリア。自分のしたことで気まずいペートゥルは素直にマリアに従ってバスに乗ろうとします。そんなペートゥルにマリアはお金を渡して別れのハグをするのでした。
その頃イングヴァルは壊れて道に置いたままだったトラクターを直そうとアダを連れて出かけていました。その時番犬を殺した❝羊男❞が現れて銃でイングヴァルを撃ってしまいます。倒れたイングヴァルに怯えてすがるアダの手を引いて去ろうとする羊男。もう一方の手を瀕死のイングヴァルが掴みますが、ひき離されてしまいます。羊男に手を引かれて山奥に消えていくアダ。
そしてペートゥルを送って家に戻ってきたマリアが二人を探すと、草地に倒れているイングヴァルを見つけました。首から血を流すイングヴァルを見て泣き叫ぶマリア。何も事情を聞き出せないままイングヴァルはこと切れてしまいました。
アダはどこに行ったの・・?
一人きりになったマリアは茫然と立ち尽くします。
それでもなんとかしなくては・・
マリアはきっと前方を見つめるのでした。
🐑映画の感想

この映画を観て数年前英国を旅したことを思い出しました。観光バスから見える山の斜面には羊、羊、羊・・。こんなに英国人は羊を放牧しているんだと驚いてしまいました。
それにしても羊はいつからこの地域で家畜とされたんでしょうか。
調べてみるとすでに紀元前7000年ころから古代メソポタミアでその痕跡が見つかっているそうです。そして家畜化された羊の祖先はモンゴルからインド、西アジア、地中海にかけて生息していた4種の野生羊だったそう。人間が羊を家畜にした目的は羊の毛や脂肪をとる事でした。
でも羊の側にしてみればどうだったのでしょう。弱肉強食はこの世の生物が生き残るための常とは言え弱い羊はそんなにも長い間人間に支配されて恨みが積もりる積もったかもしれない・・この映画はそんな視点から羊と言うものを描いたとも考えられます。
そんな羊たちの恨みのエネルギーが半人半獣の”羊男”というモンスターを具現化させたのかも。その娘であるアダは羊飼いの夫婦を束の間幸せにしてくれましたが、人間を憎む存在であるモンスターがこれを許すはずもなく無垢な存在のアダであってもやはり人間を破滅に導いてしまいます。
けれど最後のシーンでのマリアの表情はとても重要です。
愛する夫やアダを失ったマリア。何故そんなことが起こったのか知るよしもなく、もしかしたらその後知ることになるのかもしれませんが、それでもマリアは羊飼いを一人で続けていく覚悟でしょう。旅立った弟のペートゥルが兄の死で戻ってきてマリアとともに生計を立てていくかも知れません。
そうやって人間だって生きて行かなくてはならないのです。生き残るために羊を支配して共生していく・・それがマリアたちの生き方なんです。

そして最後にこの映画で驚かされたのはアダの羊の顔が本当にリアルだったこと!小さい女の子の映像に羊の顔を乗っけて編集したと思うのですが、全く作り物感がなくって自然だったのにびっくりでした😮。「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」などで特殊効果を担当したバルディミール・ヨハンソンが監督した映画だからこそって感じですね!
コメント