樹木希林の遺作になった「命短し恋せよ乙女」は繊細な主人公と摩訶不思議なものたちとの交わりを描いた映画。加えてネタバレあらすじ、感想も!

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映画記事

春らしさが際立つ今日この頃ですね。散歩する公園も早咲きの桜が綺麗です🌸。

今回は日本の誇る女優樹木希林さんの最後の出演となった日本色の濃いドイツ映画「命短し恋せよ乙女」をご紹介します!

孤独な青年が漂泊の果てに出会ったものとは・・

この映画の監督、ドイツ出身のドーリス・デリエさんはこれまで日本を舞台にした桃井かおりさん出演の「フクシナ・モナムール」や「HANAMI」などの映画を制作してきました。「命短し恋せよ乙女」は「HANAMI」の続編という形をとっています。

映画データ

製作年  

2019年

原題

Kirschbluten & Damonen(桜と悪魔)

監督

ドーリス・デリエ

脚本

ドーリス・デリエ

撮影

ハンノ・レンツ

キャスト

ゴロ・オイラー、入月絢、樹木希林、フェリックス・アイトナー他

映画の登場人物

ゴロ・オイラー(カール役)

<画像出典>https://gaga.ne.jp/ino-koi/

 1982年9月8日 (年齢 38歳) ドイツ・シュタルンベルク出身

舞台俳優から06年に映画、テレビに出演。主な出演作に「欲望の疵」(06)、「愛の臨界」(16)、グランド・ブダペスト・ホテル」(13)などがあり、2011年のミュンヘン映画祭では出演するテレビ映画『Kasimir und Karoline』でドイツ映画最優秀男優奨励賞を受賞しています。直近ではドイツ・テレビジョン放送(ZDF)の刑事ドラマシリーズ「Schwartz & Schwartz」に出演。

映画では傷つきやすい主人公を巧みに演じていました!

入月絢(ユウ)

<画像出典>https://gaga.ne.jp/ino-koi/

1983年、神奈川県生まれ。舞踏手、アーティスト

幼少からバレエを習い、その後舞踏を始めます。東京藝術大学卒業後、英国ロンドンでフィジカルシアターの学位を取得しました。大学在学中からソロとして、また舞踏家玉野黄市のダンサーとして日本、アメリカ、カナダなど10か国以上の国でパフォーマンスを行ってきました。ドーリス・デリエ監督の作品には「HANAMI」(08年)、「フクシマ・モナムール」(16)に出演。17年にはデリエ監督と共同で舞台作品「A Woman’s Work Is Never Done」をミュンヘンで制作しています。

映画の中でユウが何度か踊っているのは入月さんが舞踏手だったからなんですね。

樹木希林(ユウの祖母)

1943年、東京都出身。

70年代に「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」などテレビドラマに主演し、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、ブルーリボン賞など様々な賞に輝いた日本では誰もがその名を知る女優さん。2018年に癌にて死去。主な作品に「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」(07)、「わが母の記」(12)、「歩いても 歩いても」(07)「あん」(15)など。

この映画では随分痩せて調子の悪そうに見える希林さんでしたが、映画自体が死者と交わるものだったので健全なのよりもしっくりしたと思います。でもこの映画が遺作になってしまったのは残念です・・。

映画のあらすじ(ネタバレ)

繊細な感受性を持つカール(ゴロ・オイラー)父権的な父親と彼を溺愛する母親のもとで仲の悪い兄姉と暮らした子供時代からのトラウマを抱え、精神的に不安定なまま成長しました。

大人になったカールは銀行員として働き結婚もしましたが、両親が死んだ頃から酒をあおるようになります。そして仕事を失い、愛想をつかした妻は娘を連れて出て行ってしまいました。家族との関係を修復しようとしても拒絶される日々に孤独ばかりが深まるカールは更に酒をあおり、アルコールのせいなのか黒い不吉な影を見るまでになり怯えるようになります

そんな状態に陥ったカールの処へある日ユウ(入月絢)という名の日本人の女の子がやってきました。ユウはカールが10年前東京の銀行で働いていたとき、ドイツからカールを訪ねて来た父親のルディの世話を焼いてくれた女性です。カールが仕事に忙殺され父親を東京見物にもなかなか連れていけなかったとき、偶然知り合ったユウがルディを案内してくれたのです。ルディが日本で病に倒れ亡くなった時もつき添ってくれていたのはユウでした。そんなユウに感謝してルディはユウに自分の財産を残していました。ルディの墓参りに行きたいと頼まれたカールは仕方なく彼女を連れて実家に戻ります。

ルディの墓の前で涙を流すユウ。それを見たカールは苛立ちます。

二週間一緒にいだだけだろ

私に優しかった

真顔で答えるユウに戸惑うカール。


今はだれも住んでいないカールの実家は埃っぽく寒々としていました。庭の井戸を覗き込むユウを危ないと止めるカール。

井戸の底には死者がいるの

ユウはカールに笑います。

ここは日本じゃない

そう言い捨ててカールは家に入りました。家は昔のままでとりあえずカールたちは数日滞在することにします。しかし夜になるとまた不気味な黒い影が現れました

悪霊よ

ユウはカールにそう告げて“影”に優しく話かけました。

お茶をどうぞ

ユウがキッチンでお茶を差しだすと“影”は姿を消しました。ユウが“影”を追い払ってくれたのでカールはホッとしました。


ユウがノイシュバンシュタイン城を好きだというので二人は城の観光に出掛けました。日本人観光客もたくさんいて、その中の一人がカールに近づいてきました。

あの子は悪霊だよ、気をつけて

ユウを見ながらその男性は言います。

なんだって?

無視して通り過ぎようとするカールの腕を男性は引っ張り、サインペンで「守」という字を書きました。

お守りだよ

混雑した城内の土産物売り場でカールは義姉のエマと久しぶりに再会しました。カールには兄のクラウスと姉のカロがいましたが、エマの夫で極右政党に所属するクラウスとはルディの財産相続で揉めたこともあって長らく関係が疎遠になっていたのです。エマは息子のロベルトが部屋に引きこもって出てこないことをカールに打ち明けました。

カールはロベルトに会いに行ってみます。ユウがいつも口ずさんでいる命短し・・という日本の唄をドア越しに歌うとロベルトが部屋から出てきました。カールと顔を合わせたロベルトは父親のクラウスが極右政党に入っているのが許せない、と言います。その時クラウスが帰ってきて仲の悪いカールと喧嘩になってしまい、カールとユウは家を出ました。

<画像出典>https://eiga.com/movie/90958/gallery/

実家に戻る前に二人は湖でボートに乗りました。カールはロベルトを部屋から出してくれたことをユウに感謝します。ボートをこぐとき腕に水がかかってお守りの文字が濡れました。ユウに好意を持ち始めたカールは水で腕を擦って文字を消してしまいます。

家に戻るとユウがカールにすり寄って来ました。

あなたが好き

二人は抱き合います。

その晩カールはキッチンテーブルに座る父と母の幻を見ました。母親は子供たちの仲が悪くて辛いと言いました。お前が悪い!と父のルディがカールを責めます。

お前は男らしくない

カールはキッチンの扉を閉めました。ユウが来たので父と母がいる、とユウに告げます。

いつもいるわ

ユウが言って窓を指さします。

私の母も

窓から赤い花で飾られた帽子をかぶった女性が見えました

いつも私についてくるの


カールは娘との面会日がきたのでミアに会いに行きました。しかしアルコールの検査があり引っかかったカールは面会を禁止されてしまいます。帰っていく妻と娘の後ろ姿を見ながら涙を流すカール。ユウが慰めますがカールの心は晴れません。

実家に戻って抱き合う二人。

愛してる 離れない

そう言うユウに無理だと言うカール。

僕は負け犬だ 無理なんだ

そう言い続けるカールにユウは怒って家を出て行ってしまいました。

一人ポツンと家に残されたカールに父の幻が叫びます。

そこは私の席だぞ!

ルディはカールに言います。

お前は母親とばかり話してる 私のことはどうでもいいんだ

母の幻も現れてカールの頬を撫でます。

お前が幸せになってくれればいいの

窓に甥のロベルトの姿が見えたのでカールは外に出ました

再び父の幻が現れ今度は優しく言いました。

息子よ お前は私の一部だ

がんばれ

カールはロベルトを探して雪の中クラウスの家まで走り、部屋にロベルトがいるのを見て安心します。ロベルトと父親のクラウスが口論を始めたので家を出て実家に戻ろうとしますが寒さと疲れで倒れてしまいました。

朝になって病院に運ばれますが自分で自発呼吸もできないほど衰弱していましたクラウスの家族、姉のカロや娘たち、そしてカールの別れた妻や娘のミアも安楽死の立ち会いに集まりました。しかしそこでカールの足が動き息を吹き返します。


カールは自宅療養となり実家は久しぶりに家族が集まって賑やかになりました。姉カロの二人の娘やカールの娘ミアが大人の空気を和ませます。妻が床のカールの世話をしてくれました。

もしかしてもうこれで・・?

カールは妻に問いました。

あなたは鏡の向こうで違う何かを求めてた 私には理解できなかった

そう言って妻は穏やかに笑いました。

僕もそうだ

そうカールは答えました。

僕のことは心配しないで

カールは妻と娘のミアに言いました。

カールが回復すると家族は去っていきカールは一人きりになりました。凍傷のためにカールの男性器は無くなっていました。ショックを受けるカール・・。

ユウに会いたい・・・

痛切にカールは思いました。


カールはユウを探しに日本にやって来ました。東京から電車に乗って茅ケ崎のお寺を訪ねたとき白い着物を着たユウが現れ、彼を導くように走っていきます。着いた先は「茅ケ崎館」という旅館でした。

そこにはノイシュバンシュタイン城のスノードームやユウがカールの実家で遊んでいたピンクの電話の受話器と同色の公衆電話がありました

現れた年配の女将はブロークン(その電話は壊れているの)、と笑います。ユウとの繋がりを感じるカールはユウの写真を女将に見せて(スマホの通訳機能を使いながら)知らないかと訊ねます。女将は知らない、と言いますが明らかに動揺していました。

<画像出典>https://eiga.com/movie/90958/gallery/

泊まった部屋で酒を飲んでいるとまた例の黒い不吉な影がやって来ましたが、ユウに倣ってお茶を差しだすとお茶を飲んだ影は萎れてしまいました。してやったりと笑うカール。

旅館の女将と懇意になったカールはお祭りのためにおにぎりを大量に作るのを手伝います。そこで女将は驚くべきことを言いました。

ユウちゃんは気が触れて死んでしまったの お母さんが海で自殺して耐え切れなくて放浪していた でもお母さんの命日に同じ場所で死んでしまった・・

カールは愕然とします

そんなことはない! 僕はユウと会っていたのだから

それでも女将は言いました。

間違いない だってユウの母親は私の娘でユウは孫なのだから

祭りの日に二人とも・・

女将は付け加えました。


祭りの夜女将に呼ばれて庭を眺めていると白い着物を着たユウと母親が現れました。

今年も戻ってきてくれた

喜ぶ女将を置いてカールはユウを追いかけました。街は祭りでごった返していました。大勢の人が神輿を海に運んでいます。カールは海岸で夜を明かしました。人は誰もいなくなり寝ていたカールのそばにはユウが遊んでいたピンクの受話器が砂に埋もれていました。

カールは受話器をとってアロウ?と話します。受話器の線は海まで伸びていて海の中から白い着物姿のユウが姿を現しました。

カール・・

自分の受話器につぶやくユウ。

死んでいたのか

ユウに受話器の線を引っ張られ、カールは海に入っていきユウと抱き合います。しかしユウはカールを海に沈めようとしました。

いっしょにいて

やめてくれ!

カールはもがいてユウから離れ岸にたどり着きました。

置いていくの?

受話器につぶやいて涙を流すユウ。

もう少し・・

もう少しだけ生きてみるよ

そう答えるカール。

わかりました

泣きながらユウは続けます

人生を楽しんで

また会う日まで・・

カールは受話器を砂に置きました。

映画の感想

<画像出典>https://eiga.com/movie/90958/gallery/

映画「命短し恋せよ乙女」は「HANAMI」という映画の続編だそうです。そこで「HANAMI」とはどんな映画だったのか参考までに調べてみました。

【映画「HANAMI」とは・・】

「HANAMI」は続編にも登場しているカールの父親ルディの物語。

妻を亡くしたルディは妻が生前行きたがっていた息子カールが銀行員として働く日本を訪問します。しかし息子は仕事が忙しくなかなか父親の相手ができません。暇を持て余したルディは東京の街を彷徨ううちに桜の花の下で踊るホームレスの少女ユウと知り合います。ルディは妻が見たかった富士山を見たいと言いユウに案内してもらいます。しかし河口湖畔で病死してしまうのでした・・。

続編になる「命短し恋せよ乙女」はルディの息子カールが主人公です。

姉カロに永遠の少年と言われプリンのように精神が安定しないと評されるカール。それは父ルディの父権的な抑圧(男らしくなれという強要)や子供時代に兄や姉から受けたいじめに近いからかいなどでうまくカールは大人の男へと成長できなかったのではないかと思います。

それでもカールはルディの望む強い男になるべく頑張っていた、けれど両親が他界するとそうした虚勢を張った自分を見せる相手がいなくなって酒におぼれるようになってしまったのではないか・・映画ではその経緯を描いてはいませんが、カールは両親から気持ちの面で独立できていなかったんですね。

そんな心弱いカールを自分たちの世界にひきずりこもうと悪霊たちが集まってきます。ユウも自分の孤独を紛らわせるためにカールに憑りついた死霊でした。最後のシーンで海にカールを引っ張って殺そうとする白い着物を着た地縛霊のようなユウは恐かった。それでもカールはまだ生きようと思うと言ってユウと決別します。カールにとっては生きづらい世の中なのに生きようとするカール・・そうできずに死んでしまったユウ。

人生を楽しんで

ユウに言えるのはそれだけでした。

きっとカールは最後に父ルディの幻の言った言葉、お前の私の一部だ、頑張れという厳しいだけだった父の聞いた事のなかった励ましが響いたのかもしれません。全く孤独だけれどそれでも生きていく、というカールの覚悟は初めて大人として腹をくくったと言えるんじゃないでしょうか(もう男性器を失ってるんだし無理に男であろうとせず自分に正直に生きていくしかないもんね)。

そうしたシリアスな内容に加えてこの映画は本当に映像が綺麗でそれだけでもずっと見飽きませんでした。特にカールの実家があるドイツの田舎の風景は日差しの暖かさや空気の震えまでこちらにも感じられる気がしました。

そしてカールの死んだ両親の幻の撮影の仕方やユウの母親の幽霊がかぶっている赤い花のついた帽子などに監督の独特の感性が感じられました。またこのドイツの監督さんは本当に日本が好きなんだなあと思えて嬉しかったです。

最後にユウが口ずさんでいたゴンドラの唄ってこんな歌詞でした💛(若くして死んでしまったユウだからこその歌だったのかも知れません・・)。

<画像出典>https://eiga.com/movie/90958/gallery/

【ゴンドラの唄】

いのち短し 恋せよ乙女
あかき唇 褪(あ)せぬ間に
熱き血潮の 冷えぬ間に
明日(あす)の月日は ないものを 

いのち短し 恋せよ乙女
いざ手をとりて かの舟に
いざ燃ゆる頬(ほ)を 君が頬(ほ)に
ここには誰れも 来ぬものを

いのち短し 恋せよ乙女
波にただよい 波のよに
君が柔わ手を 我が肩に
ここには人目も 無いものを

いのち短し 恋せよ乙女
黒髪の色 褪(あ)せぬ間に
心のほのお 消えぬ間に
今日はふたたび 来ぬものを

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