こんにちは。カナエです。今回は明治の文豪、島崎藤村の小説「破戒」を映画化した間宮祥太朗さんの主演作品をご紹介します。
部落で生まれた丑松は父親から自分の”生まれ”を隠すよう戒められる
映画データ
製作年 2022年 邦画
監督 前田和男
原作 島崎藤村
脚本 加藤正人、木田紀生
キャスト 間宮祥太朗、石井杏奈、矢本悠馬、高橋和也、眞島秀和他
映画のあらすじ(ネタバレ)
明治後期の日本。小学校教師の瀬川丑松(間宮祥太朗)は部落出身者である事を隠して生きろという父親からの訓戒を守って暮らしていました。明治の時代、政府は「解放令」を発令して江戸時代にあった賤民制度を廃止しましたが、部落出身者は名目上は平民となったものの差別は根強く残っていました。そしてそれは丑松の人生に暗い影を落としていたのです。
ある日丑松の下宿している宿屋で丑松に衝撃を与える事件が起こります。宿屋の客に部落出身者がいるとわかり、女将が宿屋の畳をすべて変えると丑松に伝えてきたのです。
世間体があるから部屋を片付けておいてください
丑松は外に出て宿屋を追い出された部落出身者である老人を見つめました。裕福そうな老人は人力車に乗ろうとしていましたが、周りに集まった人々から罵声を浴びせられ石を投げられていました。卑しい身の上なのに自分たちより財を成しているのが周囲の男たちには気に入らない様でした。丑松はこの事件を機に引っ越すことにし、蓮華寺という寺に下宿させてもらう事にします。
<画像出典>eiga.com/movie/96647/gallery/
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丑松の心を唯一踊らせてくれるのは部落出身者であると自ら公言し、日本中を回って演説する活動家の猪子蓮太郎(眞島秀和)の書物を読む事でした。猪子は著作の中で人間同士の差別意識について疑問を投げかけていて、理由の無い差別は世の中から消し去るべきだと訴えていました。丑松は猪子の本からいつも勇気を貰っていました。
そして蓮華寺に来て住職の養女の志保(石井杏奈)と出会ったことも丑松の心に灯りをともしてくれる出来事でした。
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小学校で自分の教え子に親身になって接する丑松は子供たちに慕われる教師でしたが、学校の校長は政治家との結びつきを重要視する保守的な人間で、後ろ盾のない丑松を軽んじていました。そんな学校に新しい教師、勝野文平が赴任してきます。行政官の甥である勝野に校長は目をかけて重宝します。
丑松が引っ越したと聞いて師範学校からの友人である同僚の教師、銀之助(矢本悠馬)が勝野を連れて蓮華寺にやってきます。寺で美しい志保を見た勝野は志保に好意を持ちますが、寺に住む妙齢の男女である丑松と志保の仲を疑うのでした。丑松は志保に恋していましたが、自分が部落出身者であることを考えるととても志保に気持ちを伝えることができません。銀之助はそんな丑松にもどかしさを感じるのでした。
<画像出典>eiga.com/movie/96647/gallery/
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そんな折、丑松は猪子と話をする機会を得ます。猪子はいつも手紙を送ってくれる丑松に会おうと寺まで来てくれたのです。丑松は自分も部落出身者だと猪子に打ち明けようとしますが父親の顔が浮かんで言えませんでした。
今度会う機会があったらお話ししたいことがあります
丑松は猪子にそれだけ言うと立ち去ります。
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志保に気のある勝野は丑松を邪魔に思っていました。そんな時赴任先に訪ねてきた旧友二人と酒を飲んだ勝野は丑松と同郷だった一人から意外な話を聞かされます。
あそこじゃ瀬川という姓は部落出身者じゃないかな
勝野は丑松を陥れようとその話を校長に伝えます。そして丑松が部落出身者だと学校で言いふらしました。危機を感じた丑松は持っていた猪子の本を本屋に売ってしまいました。
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選挙の応援のために再び猪子が丑松の町にやってきました。
ロシアとの戦争も駆り出されるのは庶民だ 弱いものが踏みつけられる政治を変えていくことが必要だ
猪子は熱弁しますが、対抗勢力からヤジが飛びました。
部落出身者が何を偉そうに!
部落出身者であることを私は恥じていない
<画像出典>eiga.com/movie/96647/gallery/
毅然とした猪子の姿勢に聴衆は拍手を送りました。丑松はそんな猪子を見て自分のふがいなさを痛感します。しかし猪子はその夜対抗勢力に襲われて命を落としてしまいました。
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丑松は猪子の死にショックを受けます。それでも最期まで堂々としていた猪子を思うと自分の意気地の無さが耐えられなくなりました。
これからもこんな風にびくびくしながら生きていきたくはない
丑松は学校で生徒の前で自分が部落出身者であることを明かし、これまで隠していたことを謝罪しました。
それでも私は皆さんの教師をして幸せでした どうか瀬川という教師がいたことを覚えていてください
そして辞表を出して学校を去るのでした。
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丑松は蓮華寺を出て東京に行こうとしていました。それを銀之助が追ってきます。銀之助は志保を連れていました。志保は勝野から丑松の素性を聞いていましたが、それでも丑松に好意を持っていると言いました。二人は共に東京に行こうと決めます。そして銀之助に見送られて歩き出すと生徒たちがやって来ました。
先生、行かないで!
<画像出典>eiga.com/movie/96647/gallery/
生徒たちは丑松を取り囲んで泣きました。
ありがとう 皆さん
丑松は生徒たちに深々と頭を下げました。生徒たちは去って行く丑松と志保にいつまでも手を振るのでした。
映画の感想
いつも思うけどこういう文芸作品を映画化する時って主人公にバリバリの二枚目をふってきますね。間宮祥太朗さんクラスの美青年がパリッとした袴を着けて教師をしていたらそれだけで映画的に美しい。内容が重い映画だけに画面から来る魅力で視聴者を引っ張ろうという製作側の意図でしょうか。
昔の時代の映画は言葉遣いも丁寧で佇まいも静かで心地いいです。丑松は生徒たちを子ども扱いせずに対等に向き合っていました。それが生徒たちにも伝わったんだと思います。丑松のような良い教師はずっと教職を続けて欲しいです。
人間は自分と他人を区別して存在を確かめて生きるものですが差別はいけませんね。それもいわれのない差別で人を苦しめるなんてあってはならないことです。なかなかこの差別という悪は世界から消えずそれが憎しみを生み戦争に繋がっていきます。毎日さまざまな場所で紛争が起きますが早くおさまって平和な心穏やかに過ごせる場所が増えて行って欲しいです。
<画像出典>eiga.com/movie/96647/gallery/
実はカナエは島崎藤村のこの小説をずっと「破壊」だと思ってました。内容が部落差別を扱っているとは知っていたのでそんな既成概念を主人公が破壊していく内容じゃないかと勝手に思ってました。でも「破戒」が正しくて、亡くなった丑松の父親が遺した訓戒を丑松が破る、という意味だったんだとこの映画を観て納得しました。
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